先天性心疾患

先天性心疾患
 生まれつき心臓や血管の構造的異常があるこ事により起こる疾患の総称で、母胎内で何らかの異常が生じて心臓や血管が未完成もしくは誤った形で出生する事が原因です。 心臓や血管の構造が通常と異なるために心臓や肺を流れる血流に異常が生じ、肺や全身が酸素不足になりいろいろな症状が起こります。 疾患によっては血液中の酸素が不足して、口唇や指先、爪の下(爪床)などの皮膚や粘膜が青紫色になったチアノーゼの状態を呈する事があります。
原因
ダウン症候群
マルファン症候群
ターナー症候群
無脾症
多脾症
13トリソミー (パトウ症候群)
18トリソミー (エドワーズ症候群)
しかし、多くの場合でいろいろな原因が重なって先天性心疾患が起こると考えられており、原因を特定できない事が多い様です。 妊娠中の喫煙・飲酒・投薬も影響する可能性も示唆されています。
症状
呼吸促拍
食欲不良
体重増加不良
むくみ
発汗
四肢冷感

あまり目立った症状がないまま成長する事もあります
心房中隔欠損症、心室中隔欠損症などでは欠損孔が小さい場合には、目立った症状がないことが多い
発汗
四肢冷感
あまり目立った症状がないまま成長する事もあります
心房中隔欠損症、心室中隔欠損症などでは欠損孔が小さい場合には、目立った症状がないことが多い
チアノーゼ
 血液中の酸素が不足して、口唇や指先、爪の下(爪床)などの皮膚や粘膜が青紫色になった状態。 重症度が高い事や、心臓の形が大きく異なったりして手術の難易度が高い場合もあります。
 チアノーゼを呈しない先天性心疾患
   心房中隔欠損症
   心室中隔欠損症
   心内膜欠損症
   肺動脈弁狭窄症
   動脈管開存症
   大動脈縮窄症
   冠動脈起始異常症
   など
 チアノーゼを呈する先天性心疾患
   ファロー四徴症
   両大血管右室起始症
   完全大血管転位症
   総肺静脈還流異常症
   三尖弁閉鎖症  
   肺動脈弁閉鎖症
   左心低形成症候群
   など
検査
〇 聴診
 心雑音を聴取する場合があります。 聴取する場合は、その位置、種類、強さなどを確認します。
〇 胸部レントゲン写真
 心臓の大きさ・形を調べます
〇 心電図
 心臓を動かす電気の流れに異常がないか調べます
〇 心エコー
 心臓の構造的異常がないか調べます。 心臓の動き、心臓内の圧、弁の逆流や狭窄の程度、大動脈・肺動脈の狭窄、肺高血圧の有無・程度などを調べます。
〇 心臓カテーテル検査
 太ももの付け根の血管等から心臓まで細い管 (カテーテル) を通して、血管や心臓内の圧や酸素濃度を測定したり、造影剤を使用して心臓の形を見たり血液の流れを確認する事ができます。
多く見られる先天性心疾患
〇 心室中隔欠損症
 左心室と右心室の間にある壁 (心室中隔) に生まれつき穴が空いている病気で、治療しなくても自然に閉鎖する人もあります。 左心室から大動脈へ流出するはずの血液の一部が心室中隔に空いている穴から右心室へと流れるため、心臓から大動脈へ本来の血液量を送るためには心臓に負荷がかかります。 先天性心疾患の約5%を占め先、天性心疾患の中では一番多いとされています。 症状として労作時呼吸苦・息切れ・発汗などがありますが、症状が進行すると安静時でも息切れが出る事があります。
〇 心房中隔欠損症
 右心房と左心房の間にある壁 (心房中隔) に生まれつき穴が開いている病気で、病状が進行した重症例を除き血液が左心房から右心房に流れますが比較的症状は出にくいです。 しかし、病状が進行すると息切れなどが出る場合があります。 先天性心疾患の約5%を占めるとされ、男:女=1:2と女性に多いです。 幼児期や学童期に発見される事が多いですが、無症状で成人まで正常の生活を送れる事もあります。
〇 肺動脈狭窄症・肺動脈閉鎖症
 肺動脈狭窄症は右心室から肺へ向かう動脈 (肺動脈) が狭窄している病気で、先天性心疾患の約10%を占める比較的多い病気です。 肺動脈狭窄症は右心室から肺動脈へ血液が流れにくくなり、右心室に負担が掛かって右心不全症状を呈する事があります。 ファロー四徴症などに合併している事もあります。
 肺動脈閉鎖症は肺動脈が閉鎖している状態で、肺動脈狭窄症に比べて重症の事が多い様です。 肺動脈閉鎖症は卵円孔開存または心房中隔欠損を伴っていますが、心室中隔欠損症を伴う場合と伴わない場合があります。 出生早期から頻呼吸やチアノーゼの状態を呈し、早期に適切な処置が必要です。
〇 動脈管開存症
 胎児は母胎内で肺呼吸をしてないので肺に血液を送る必要がありません。 このため、肺動脈と大動脈をつなぐ血管 (動脈管) が存在し、右室→肺動脈→動脈管→大動脈の順で血液が流れる事により全身に血液が循環しています。 生後1~2日で徐々に閉じて機能しなくなり、2~3週で完全に閉じるはずの動脈管が生後も開いたまま残るのが動脈管開存症です。 先天性心疾患の5~10%を占め、男:女=は1:3で女性に多いです。
〇 ファロー四徴症
 ファロー四徴症は心室中隔欠損、大動脈右方騎乗、肺動脈狭窄、右室肥大の4つの特徴を持ったチアノーゼを生じる先天性心疾患で、先天性心疾患の5~10%程度を占めるとされています。 心室中隔欠損に加えて本来は左室から出る大動脈が右心室と左心室にまたがり出ている (大動脈右方騎乗) ため、右心室から心室中隔欠損孔を通して酸素濃度の低い血液が大動脈へ流れるため爪や口唇の色が紫色になるチアノーゼを呈します。
〇 両大血管右室起始症
 両大血管右室起始症は大動脈と肺動脈の50%以上が右室から出ていて、殆どの症例で心室中隔欠損を伴っています。 右心室からの静脈血と左心室から心室中隔欠損孔を通り右室に流れてきた血液とが混ざり大動脈に流出するため高度のチアノーゼを認めます。 肺動脈狭窄を伴うと、ファロー四徴症に似た血行動態を呈します。
〇 完全大血管転位症
 右心室から肺に血液を送り出す肺動脈と左心室から全身に血液を送り出す大動脈の位置が入れ替わっている先天性心疾患で、生存するために殆どの場合で動脈管開存症・心房中隔欠損症・心室中隔欠損症などを伴っています。 先天性心疾患の4~8%程度を占め、やや男性に多く、全身浮腫、呼吸困難、チアノーゼを呈します。
〇 総肺静脈還流異常症
 血液が肺から心臓に戻る血管 (肺静脈) が本来とは異なる場所に還流する先天性疾患で、肺に血液が留まる肺うっ血状態を呈したり、全身への酸素運搬が不十分となり多くの場合で出生直後からチアノーゼを呈したりします。 発生頻度は先天性心疾患の0.3〜2%程度とされています。
〇 部分肺静脈還流異常症
 4本の肺静脈のうち1〜3本が体静脈系に異常還流する疾患で、多くの場合で心房中隔欠損を合併しています。 異常還流する肺静脈の本数、心房中隔欠損の有無などにより無症状のものから総肺静脈還流異常と同様に肺うっ血を呈するものまであます。
〇 三尖弁閉鎖症
 右心房と右心室の間に存在する三尖弁が先天的に閉鎖してしている疾患で、多くの場合で心房中隔欠損症も合併しているため右心房から左心房へ血液が流れる事により全身への血液循環が可能です。 チアノーゼ・息切れ・呼吸不全・哺乳量低下などの症状が出生直後から現れます。
〇 肺動脈弁閉鎖症
 右室から肺へ血液を送る肺動脈にある逆流防止弁 (肺動脈弁) が閉鎖している先天性心疾患で、通常は心室中隔に異常がなく右室が発育不良の事が多いです。 右室から肺動脈へ血液が流れないため、多くの場合で血液は右房から心房中隔欠損孔を通して左房に流れます。 一部の症例を除いて、胎児の時に血液が右室から肺動脈を通して直接大動脈へ流れるために存在した動脈管を通して肺動脈 (この場合は大動脈→肺動脈) に流れるしか肺への血液がありません。 右室の大きさ、三尖弁の形態などから適切な方針を選択する必要があります。
〇 左心低形成症候群
 心臓にある4つの部屋のうち、肺から戻ってきた血液を全身に送る役目をしている左心房と左心室を左心系と呼びます。 左心低形成症候群はその左心系が先天的に不完全な状態である疾患で、右心系から左心系に血液が流れるためには動脈管が開存していることが必要です。 主な症状はチアノーゼ・呼吸困難・頻脈・四肢冷感・哺乳不良・発育不良などです。 
治療法
〇 経過観察
 一部には自然に改善するものもありますが、手術などの何らかの治療が必要になる事が多いです。
 安静、飲水制限など
〇 薬物療法
 利尿薬、降圧薬、強心剤
 動脈管開存症の場合は、生後間もない場合はプロスタグランジン合成阻害薬 (インドメタシン) を使用して動脈管閉鎖を試みる事もあります。
〇 手術
 姑息手術
 カテーテル手術
 根治手術