狭心症

虚血性心疾患 (狭心症・心筋梗塞) とは
心臓は栄養と酸素を含んでいる血液を全身に送っている重要な臓器です。 心臓は筋肉で出来たポンプで1日に約10万回動いているので、心臓自身もたくさんの栄養と酸素つまり血液を必要としています。
心臓の筋肉 (心筋) に血液を供給しているのが冠動脈です。 この冠動脈が、何らかの原因により狭くなったりして心筋が必要としている十分な量の血液が供給できなくなると一過性の心筋虚血が起こります。 これが狭心症です。 さらに著しい冠動脈狭窄や完全閉塞が起こり心筋が壊死すると心筋梗塞となります。
狭心症には以下のものが挙げられます。
〇 冠動脈の形状による分類
 ・動脈硬化性狭心症:動脈硬化により起こります。 原因として、冠動脈にコレステロールなどによるプラークができで冠動脈が狭くなる事 (狭窄) により起こります。 誘因としては高血圧、脂質代謝異常、糖尿病、高尿酸血症、喫煙、肥満、ストレス、性格などが考えられます。
 ・微小血管狭心症:心筋内の微小血管の狭窄および攣縮による心筋虚血で、更年期の女性に多く見られる特徴があります。 誘因として喫煙、閉経が考えられ、女性の場合は血管拡張作用を持つ女性ホルモン (エストロゲン) が閉経により減少して引き起こされる事があるとされています。
 ・攣縮型狭心症 (異形狭心症):一時的な冠動脈の攣縮により起こり、日本人の場合は深夜から早朝に多いとされており著明な心電図変化を伴います。 動脈硬化とは関係なく、誘因としてストレス、緊張、喫煙、飲酒、疲労、体の冷え、女性ホルモンの減少などが考えられます。
〇 症状の起こり方による分類
 ・労作性狭心症:冠動脈の一部が動脈硬化等で狭くなり心臓自身へ血流が減少している状態で、坂道・階段を上る時や運動などにより心拍数や血圧が上昇して心筋の酸素需要量が多くなった時に一時的に心筋が虚血となる状態です。 胸痛、締め付け感 (胸部絞扼感)、吐き気などの症状があります。 通常は安静にする事により心拍数や血圧が落ち着けば数分で症状は改善する事が多いですが、冠動脈狭窄が進行するとこのような胸痛発作が軽度の労作で頻繁に起こる様になります。
 ・安静時狭心症:安静時に発生する狭心症で、冠動脈の狭窄を伴うものと伴わないものがあります。 冠動脈狭窄を伴うものは労作性狭心症が進行した状態で、伴わないものは上記の攣縮型狭心症 (異形狭心症) と考えられます。
 ・不安定狭心症:症状が軽い労作でも胸部症状が出やすくなった場合や、あるいは今までになかった様な新しい症状が出てきた場合で、急性心筋梗塞に移行する可能性が高い状態です。
症状
 前胸部の締め付けられるような痛み (胸部絞扼感)、胸部圧迫感などが主症状ですが、頸部痛、歯痛、肩の痛み、心窩部痛、背部痛などを認める事もあります。 この他、動悸、不整脈、呼吸困難、冷汗、嘔気、頭痛、めまいを伴う事もあります。
 狭心症発作は15分以内に消失することが多いですが、症状が長引くと心筋梗塞を発症したり、場合によっては心室細動などの重篤な不整脈を引き起こして失神する事があり注意が必要です。
検査
〇 心電図
 心臓の電気的変化を調べます。 手足の付けた電極 (四肢誘導)で心臓の縦の平面の電気的変化を、胸に付けた電極 (胸部誘導)で心臓の横の平面の電気的変化を調べる事により、心臓の電気的変化を三次元で捉える事ができます。
〇 運動負荷心電図
 運動した状態で心電図を記録することにより、労作性狭心症での心電図変化が確認できます。
〇 ホルター心電図
 小型の心電図記録装置を体に装着したり携帯したりして、心電図を24時間記録します。 狭心症は胸部症状がなくなると心電図も正常に戻る事も多いため、症状が出現した時の心電図を記録する事が重要となります。 症状が出現した時の心電図波形を平静時波形と比較して変化を調べる事により、日常生活のどの様な場面で心臓に負担が掛かっているのかが分かります。
〇 心エコー
 心臓の形態やその動きを確認する事ができます。
〇 心筋シンチグラフィー
 放射性同位体(RI)を使用するので特定の施設でしか検査できません。 冠動脈狭窄があっても心筋に十分な血流があるか、必要な血流が維持されているかどうかが判定できます。
〇 冠動脈造影CT
 カテーテルを使用せず静脈から造影剤を注射して高性能のCT撮影を行う事で冠動脈の評価が可能です。 カテーテル検査と比べ低侵襲で体の負担が少なく外来で検査が可能ですが、冠動脈の石灰化が強い場合は診断の精度が低下する場合があります。
〇 冠動脈造影検査 (カテーテル検査)
 カテーテルと言われる細長い柔らかいチューブを手首・肘・足の付け根の動脈から挿入して心臓の血管 (冠動脈) の入口付近で造影剤を注入して冠動脈を造影します。 これにより冠動脈狭窄の有無・程度が分かります。
治療
内服加療:アスピリンなどの抗血小板剤、血管拡張薬であるカルシウム拮抗薬・硝酸薬などの薬剤、心負荷を軽減させるβブロッカーの投与
〇 カテーテル治療:経皮的冠動脈形成術
 手首・肘・足の付け根の動脈から先端に風船 (バルーン) の付いた極細のカテーテルを冠動脈の狭くなったに所まで挿入して、ここで風船を膨らませる事により狭くなっている冠動脈を広げます。 その後、カテーテルは抜き取ります。
 ステント治療は、冠動脈狭窄部位でステンレスなどの金属でできた小さい網目状の筒 (ステント) を上記の風船付きのカテーテル膨らませて拡張し、そこにステントを留置する事により再狭窄の可能性を減らします。
 風船治療では治療後およそ3か月以内に30~40%程度の患者さんで再狭窄が認められます。 ステント治療は再狭窄率は20%前後とされていますが、再狭窄が生じる時期は6か月以内と長くなりますので治癒判定には時間がかかるとともに、ステント内に血栓ができる可能性があるため抗血小板剤などの服用が必要となります。
〇 冠動脈バイパス術
 冠動脈バイパス術が適応となるのは以下の場合などです。
  冠動脈が完全に閉塞している (完全閉塞病変)
  左前下行枝の根元部分 (左前下行枝近位部) の狭窄を含む1枝、2枝病変のある場合
  治療しなくてはいけない箇所が3つ以上ある場合 (多枝病変)
〇 攣縮型狭心症 (異形狭心症) の場合は、冠動脈狭窄を認めないのでステント治療や冠動脈バイパス手術などを行う必要はなく、カルシウム拮抗薬などの冠攣縮を予防する薬剤を内服することにより治療可能です。