高血圧

高血圧とは
 心臓は1日に約10万回の収縮と拡張を繰り返す事により、栄養と酸素などの重要成分を含む血液を動脈から全身へと送っています。 心臓が収縮し血圧が上昇して最高となった値が最高血圧または収縮期血圧で、心臓が拡張し血圧が最低となった値が最低血圧または拡張期血圧です。 この血圧が正常値を超えて高くなった状態が高血圧です。
 日本高血圧学会の基準によると75歳以上では家庭血圧では収縮期血圧135mmHg以上、拡張期血圧85mmHg以上、診察室血圧では収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上を高血圧としています。 75歳未満では家庭血圧では収縮期血圧125mmHg以上、拡張期血圧75mmHg以上、診察室血圧では収縮期血圧130mmHg以上、拡張期血圧80mmHg以上を高血圧としています。 わが国において高血圧の人は推定4000万人程いるとされ、内服等により血圧をコントロールしている人はそのうちの僅か3割程度と言われています。
 血圧は一日の中で変化しており、一般的に朝の起床の頃から上昇して昼過ぎに最高値となり日中は高く、その後徐々に低下し夜間・睡眠中は低くなります。 気温の変化に似ています。 さらに睡眠、運動、食事、入浴などにより変化するので、診察室で測定する血圧だけでなく家庭で測定する家庭血圧が重要視されています。
高血圧の診断基準
  診察室血圧
収縮期血圧/拡張期血圧 (mmHg)
家庭血圧
収縮期血圧/拡張期血圧 (mmHg)
正常血圧 <120/ かつ /<80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120~129/ かつ /<80 115~124 かつ <75
高血圧 130~139/ かつ又は /80~89 125~134 かつ又は 75~84
I度高値血圧 140~159/ かつ又は /90~99 135~144 かつ又は 85~89
II度高血圧 160~179/ かつ又は /100~109 145~159 かつ又は 90~99
III度高血圧 ≧180/ かつ又は /≧110 ≧160 かつ又は ≧100
高血圧の分類
 〇 本態性高血圧
  血圧が高くなる原因が特定できない場合を本態性高血圧症と言い、高血圧の大部分 (90~95%程度) を占めています。
 〇 二次性高血圧
  原因が明らかである高血圧症を二次性高血圧症と言い、腎実質性高血圧、腎血管性高血圧、内分泌性高血圧 (原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)、睡眠時無呼吸症候群、遺伝性高血圧、薬剤誘発性高血圧といったものがあります。
 〇 白衣高血圧:診察室血圧が高血圧を示すが診察室以外では正常血圧を呈し、リスクは正常血圧と余り変わりないので直ぐには降圧治療の対象とはならない。
 〇 仮面高血圧:診察室血圧は正常であるがそれ以外で高血圧を示す。
  ①早朝高血圧:自宅で測定した早朝血圧の平均が135/85mmHg以上となる場合で、夜間高血圧から移行するものと朝に急上昇するサージタイプがある。 動脈硬化、アルコール多飲、不十分な降圧薬の量などが影響する。
  ②昼間高血圧:診察室血圧は正常であるが職場や家庭での精神的ストレスがあると昼間の血圧が上昇しているタイプ。
  ③夜間高血圧:夜間の平均血圧が120/70mmHg以上の場合で、心不全・腎不全による循環血液量過多、夕食の塩分摂取量過多、睡眠時無呼吸症候群、自律神経障害、脳血管障害、認知機能低下などが影響します。
高血圧となる原因
 過剰な塩分摂取
 カリウムを含む野菜や果物の摂取不足
 喫煙
 肥満
 運動不足
 過剰なアルコール摂取
 精神的ストレスや自律神経の調節異常
 遺伝的素因
 加齢
 寒さ
 季節 (冬)
症状
一般的に以下のような症状があります
 頭痛
 肩こり
 動悸
 のぼせ
 めまい
 耳鳴り
 イライラ・ストレス・不安感
 むくみ
高血圧脳症
 収縮期血圧が200mmHg以上となる重症高血圧が続くと脳浮腫が起こる可能性があり、これが高血圧性脳症です。 激しいけいれんを起こしたり、呼吸障害や腎機能障害を惹起する事もあり注意が必要です。
 高血圧脳症の症状
  激しい頭痛
  嘔気・嘔吐
  周りがぼやけて見える
  意識障害
  全身痙攣
検査
〇 家庭血圧測定
 起床後1時間以内、排尿後、朝食および服薬前、座った姿勢で暫く安静にした後に心臓の高さに近い上腕で2回測定します。 2 回の測定値が 5mmHg 以上異なっている場合には追加測定を行い、およそ 5mmHg未満の測定値差となった2回の平均値を血圧値とすると良いです。
〇 24時間自由行動下血圧測定 (ABPM)
 機械により24時間にわたり血圧を自動で測定します。 1日24時間における血圧は日常活動度、季節や温度、食事や嗜好 (喫煙、コーヒー、アルコール等)、入浴、睡眠時間等に大きな影響を受けるため診察室での随時血圧とは相関しない可能性があります。 ABPMは診察室血圧測定に比べて概日変動制や夜間血圧の評価などに有意義な点があり、早朝高血圧、白衣高血圧、仮面高血圧の診断に役に立ったり、降圧薬の薬効・持続時間の評価に有用です。
〇 血液検査:腎機能、コレステロール値、糖尿病の有無などを確認します。
〇 胸部X線検査:放射線を用いる検査で、心臓や大動脈の大きさ・形状を調べます。 胸部X線検査1回の被曝線量はごく僅かで、飛行機で東京とニューヨーク間を往復した時に被曝する宇宙線量とほぼ同程度でさほど心配はありません。
〇 心電図:心筋の収縮・拡張に伴う心臓の電気的変化を波形として記録し、心筋の異常や不整脈等を確認する検査です。 この検査では狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患、不整脈、高血圧に伴う心肥大等の心電図異常が分かります。
〇 尿検査:腎臓の血管が動脈硬化・高血圧等で障害されると蛋白尿や血尿を起こす事があり、この状態が腎硬化症です
〇 心臓足首血管指数 (CAVI)+足関節上腕血圧比 (ABI):両腕と両足首で血圧を測定する事により心臓から足首までの大動脈を含む動脈硬化の指標で、動脈硬化が進行するほど高い値となります。 ABIは動脈硬化が進行して血管が高度に狭くなったり閉塞したりすると、そこの部位の血圧が低下しますが、足首の血管が低下してくると脳動脈や心臓の血管である冠動脈に動脈硬化がみられる可能性があると言われます。 この検査で血管の硬さ、足の動脈の詰まり具合、血管年齢が分かります。
〇 頸動脈エコー検査:コレステロールなどが血管壁に粥状の塊りを作っている状態をアテロームと呼び、内膜や中膜が良く発達した心臓を栄養する冠動脈、大動脈、脳・頸部、腎臓、下肢の動脈などで発生しやすいです。 頸動脈エコー検査では大動脈と脳の血管を結ぶ首の血管 (頸動脈) の性状を調べます。 頸動脈の動脈硬化の程度は大動脈、脳・頸部、腎臓、下肢の動脈を含めた全身の血管の動脈硬化を反映すると言われ、頸動脈エコー検査は全身の動脈硬化の程度を調べる検査として広く用いられています。
治療
〇 減塩:集団の収縮期血圧が2 mmHg低下すると脳卒中は約6%低下するというデータがあり、循環器疾患の予防のために減塩は重要と考えられます。
〇 カリウムの摂取量を増やす事も大切です。 カリウムはナトリウムの尿中排泄を促して、塩の血圧上昇効果を減らして血圧を下げます。 成人1日あたり男性で3000mg以上、女性で2600mg以上が目標です。 カリウムは野菜や果物に豊富に含まれていて、牛乳および野菜や果物ジュースもお薦めです。 しかし、腎臓病の人はカリウムを制限する必要があので主治医に確認が必要です。
〇 薬物療法
 高血圧に対する薬物療法で大切な事
  血圧変動パターンの把握
  患者さん個人での薬効持続性
  降圧薬内服のタイミング

 患者様の状況に応じて、以下の薬剤を用いて適切な薬物治療を行っています。
  レニンアンジオテンシン系阻害薬
    レニンアンジオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE)
    アンジオテンシンII受容体阻害薬 (ARB)
  カルシウム拮抗薬
  利尿薬
  抗アルドステロン薬
  アルファ(α)遮断薬
  ベータ(β)遮断薬
  など