不整脈

不整脈とは?
 心臓の脈拍が正常とは異なるリズムやタイミングで起きる状態を不整脈と言います。 この中には脈が正常よりも速くなる頻脈と遅くなる徐脈、さらにタイミングが異なる期外収縮があります。
 不整脈には緊急性はなく放置しても問題のないものや、眩暈、ふらつき、眼前暗黒感、失神などを認めるものや、重篤化すると労作時呼吸苦、下腿浮腫などの心不全症状を認め、時には突然死の原因となる不整脈もあるので注意が必要です。
 不整脈には、脈が多くなる頻脈性不整脈と少なくなる徐脈性不整脈があり、以下の様なものが挙げられますます。
頻脈性不整脈
〇 心房性期外収縮
 心房内の異なる場所で興奮が発生して、本来の洞調律で起こる心房興奮よりも早い時点で起こる心房興奮を心房性期外収縮と言います。 この不整脈が起こると脈圧が小さくなり脈が弱く感じられたり、次に起こる脈の脈圧が逆に大きくなり「ドキッ」と感じられたりします。
〇 発作性上室性頻拍
 規則的に心臓を動かす洞結節からの電気信号とは異なり、何らかの原因で心臓の中を流れる余分な電気経路ができると、そに電気が流れて脈が早くなる事があり、以下の様なものが挙げられます。
 ●房室結節回帰性頻拍
  発作性上室性頻拍症の中で最も頻度が多く、年齢に関係なく起こり得ます。 突然に動悸が始まり、続いて目眩、息切れ、胸痛、失神等が見られます。 直ぐに命に関わる可能性は低いですが、発作時の症状が強く感じられる事が多い様です。
 ● 副伝導路症候群 (WPW症候群)
  心房と心室の間には1つの電気経路がありますが、ケント束という余分な電気経路 (副伝導路) が存在すると頻脈性不整脈等が起こる可能性があります。 通常、心房から心室へ伝わる電流が、WPW症候群では副伝導路を通って再び心房へ戻って来て頻脈となる「房室回帰性頻拍」が起こる可能性があります。
 ●心房頻拍
  心房のある場所に生じた早い頻度で興奮する心筋細胞から心房内に電気的興奮広がり、さらに心室へ伝わる事により頻脈が起こります。
〇 心房粗動
 電気的刺激が心房内の同じ場所をグルグルと回り、1分間に250~300回という頻度で心房が規則的に動いている状態を心房粗動と言います。 正常よりも早い頻度で心房の電気的興奮が起こるため、これに伴い心室の電気的興奮頻度も速くなる事があり、動悸や頻脈などの症状を自覚するようになります。
 心房粗動は心房性不整脈なので心室不整脈に比べて、生命を左右する危険性は低くなります。 しかし、著しい頻脈状態を長期間放置すると心不全などが起こったり、心臓内に血栓が形成されると脳梗塞を発症する可能性もあるため致死性が低いと言っても注意が必要です。
〇 心房細動
 洞房結節による正常な刺激伝導路ではなく、他の複数の心房内や心房周囲の場所から電気的刺激が誘発されると心房細動になります。 電気的的刺激が一定ではなくは不規則になるため、心房は周期的に収縮できず痙攣した様になります。 心房が正常に収縮しないため、心房から心室に血液を送る効率が低下する事と心室も不規則に拍動するため心臓から送り出される血液量が約10%低下する可能性があります。 心拍出量がわずかに低下しても、通常は大きな問題にはなりにくいですが心運動時などには動悸・息切れ・易疲労感などの症状が出やすいです。 心房細動で治療を受けていない場合では、一般的な心拍数よりも脈が多く運動中にはさらに多くなり易いです。
 心室細動とは異なり突然死のリスクはほとんどありませんが、心房細動を発症すると脳梗塞を発症する危険性があり、心房細動による脳梗塞は大きな脳梗塞を起こし易く広範囲の脳障害を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
〇 心室性期外収縮
 洞結節からの正常な刺激伝導路を経由せずに心室から起こる期外収縮で、症状として脈が跳ぶとか動悸などを訴える方が多いですが無症状で自覚症状のない方もあります。 また、血圧計で血圧測定中に脈拍数にエラー表示が出たり、脈拍数が通常よりも著明に低下している場合は、心室性期外収縮が出ている可能性があります。 心室性期外収縮が長期に渡り多発すると心筋症になったり、心機能の低下により動悸・息切れ・浮腫などの心不全症状が生じる事もあります。 心室性期外収縮が連発する事により、稀に心室頻拍や心室細動と言った突然死の原因となる事があります。
〇 心室頻拍
 通常よりも早く規則的に心室が興奮する不整脈を心室頻拍と言い、心筋梗塞・心筋症・先天性心疾患などに伴い発症する場合や特に原因がなく起こる特発性のものがあります。 心室頻拍が続くと心臓から全身に十分な血液が流れなくなり、脳への血流低下が低下して意識消失を生じたり生命の危機を引きおこす可能性がある重篤な不整脈です。 持続時間の長い心室頻拍や、頻拍中の波形が時間とともに変化して場合によっては心室細動に移行して行く多形性心室頻拍は命にかかわる可能性があり非常に注意が必要です。
〇 心室細動
 心室細動は心室が不規則にブルブルと痙攣した状態になる不整脈で、心室が正常の拡張と収縮を繰り返す事ができずに全身への血液供給がなくなるとともに冠動脈を経由した心臓自身への血液供給もなくなり、早期に心停止の状態となります。 この状態が続くと短時間で呼吸停止となり危険な状態に陥って、脳・肝臓・腎臓などの重要臓器に大きな障害をもたらし重篤な後遺症が残る可能性があるために、速やかな心肺蘇生や治療を行う必要があります。 心臓が原因で突然死する病気としては多く注意が必要で、原因としては心筋梗塞・心筋症・QT延長症候群、Brugada (ブルガダ)症候群などがあり、比較的若くして突然死した家族があるかどうか確認することも大切です。
徐脈性不整脈
〇 房室ブロック
 心房から心室への電気信号が何らかの原因で流れにくくなっている又は途絶したあ状態を房室ブロックと言います。 これによる症状にはさまざまなものがあり、定期的な経過観察で良いものから、徐脈等に伴う重篤な症状がある場合にはペースメーカ植込みが必要となる場合もあります。 房室ブロックの重症度により以下の3タイプに分類されます。
 1度房室ブロック:心房から心室まで電気信号の伝わる時間が0.2秒以上に延長している状態。
 2度房室ブロック:心房から心室までの電気信号が一時的に伝わらなくなる状態で、電気の伝わる時間が徐々に伸びていき一度脈が跳んで元の状態に戻るもの (Wenchebach型) と、突然脈が跳ぶもの (MobitzII型) があります。
 3度房室ブロック:心房から心室まで電気信号が伝わらない状態。
〇 洞不全症候群
 心臓を収縮させるのに必要な電気信号を出す洞結節の機能が低下する事により著明な徐脈になったり心停止となる状態で、息切れ、易疲労感、呼吸苦のほかに脳血流が低下する事によりふらつき、眩暈、失神等の症状が現れたりします。
〇 徐脈性心房細動
 心房細動に房室ブロックが合併した状態で、心房から心室へ電気が伝わりにくくなり心房細動でありながら徐脈となります。 心房細動に心房から心室へ電気が流れない完全房室ブロックを合併すると、心房細動でありながら規則正しく脈が触れ事もありますが心停止となる可能性もあり特に注意が必要です。
検査
〇 心電図
 心電図とは心臓の筋肉の電気的変化を体表面に付けた電極で検出して図形として記録したものです。 手足に付けた電極 (四肢誘導)で心臓の縦の平面の電気的変化、胸に付けた電極 (胸部誘導)で心臓の横の平面の電気的変化を見る事により、心臓の電気的変化を三次元で捉える事ができます。
〇 ホルター心電図 (24時間心電図)
 マッチ箱程度の機械を前胸部に装着し、不整脈のタイプと程度を24時間にわたって調べます。
治療法
〇 薬物治療
 頻脈性不整脈と徐脈性不整脈のうち、おもに頻脈性不整脈が薬物治療の対象となります。
 心房細動、心房粗動などに対する薬物治療には、正常洞調律の回復・維持を目指すリズムコントロールと不整脈を洞調律に戻すよりも心拍数のコントロールを優先させるレートコントロールがあります。 リズムコントロールには自覚症状を改善するとともに血栓塞栓症等の危険性を減らす事などが期待できます。 一方、長期に及ぶ心房細動など正常洞調律への回復が難しい場合や、洞調律に回復しても直ぐに心房細動などの不整脈が再発する場合は、不整脈の洞調律化を試みるよりも心拍数をコントロールする事を優先させる方が自覚症状が早く改善できたり心不全への悪化を予防する事ができます。 不整脈のタイプやその人の症状に合わせて適切な薬剤を選択する事になります。
 心房細動では心房内に血液の塊 (血栓) ができる可能性があり、これができると場合によっては頭に跳ぶ可能性があります。 心房細動によって起こる心原性脳梗塞は広範囲の脳梗塞で重症化する事が多く、できるだけ避けたい合併症です。 血栓リスクは次の既往歴のうち、心不全 (1点)、高血圧(1点)、年齢75歳以上(1点)、糖尿病(1点)、脳梗塞または一過性脳虚血発作 (TIA) の既往 (2点) としてで合計点で判断します。 1点でもあれば直接阻害型経口抗凝固薬 (DOAC) やワルファリンを服用した方が良さそうです。
 徐脈の場合はβ刺激薬や一時的にアトロピなどの注射薬の使用もありますが、薬物では完治は難しいです。
〇 アブレーション
 カテーテルで行うカテーテル・アブレーションと心臓手術 (開心術) に併せて行うアブレーションがあります。
 カテーテル・アブレーションでは足の付け根 (鼠径部) の大腿静脈と頸部の内頸静脈からカテーテルを挿入して心臓内まで進めて行き、このカテーテルで不整脈の原因部分の心筋を焼灼する事で発作性心房細動、心室期外収縮、非持続性心室頻拍・心室細動等の治療を行います。 また、液体窒素を用いた冷凍凝固アブレーションも行われています。
 カテーテル・アブレーションを施行しても完治するとは限らず、再発する可能性がります。 再発した場合は、心臓手術 (開心術) に比べて侵襲が少ないので再度アブレーションを受ける事ができます。
 合併症として、カテーテルが心筋に強く当たり過ぎて突き抜ける事により発生する心タンポナーデや、また心房内に小さな血液の塊 (血栓) ができて脳梗塞を発症するのリスクも多少あります。 また、心臓の後ろに存在する食道に熱が伝わり過ぎると左心房と食道との間に穴が開く左心房食道瘻という合併症を起こす可能性があり、場合によっては出血性ショックとなり命にかかわる危険な状態です。
〇 植込み型除細動器
 致死的不整脈を予防する事はできませんが、心臓の電気信号を常時監視して致死性不整脈を感知すると抗頻拍ペーシング、カルディオバージョン、除細動等の電気ショックを発生する事により、心拍動を正常なリズムに戻して動悸・失神等の症状を改善する事ができます。  アブレーション等の根治療法が不可能または難しい場合には有効と考えられます。
〇 ペースメーカ植込み
 2度房室ブロックMobitzII型や3度房室ブロックで、徐脈による眩暈や失神等の症状がある場合はペースメーカ植込み術の適応となります。 ペースメーカは使用頻度により異なりますが、一般的に数年に一度の割合で電池交換が必要となります。 MRI、電気メス、超短波や低周波治療器具、磁気マット、磁石、電気風呂等の使用は基本的にはできません。